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ニュースレターNo.7 『「を含む (含有する) 」及び「から成る」の解釈 判例解説」』

<概要>

今回から数回に分けて、「を含む (含有する) 」及び「から成る」の解釈について争われた判例を見ていきたいと思います。
今回は、二つの判例、平成6年 (ワ) 第22487号 損害賠償請求事件、及び平成16年 (ネ) 第1589号 損害賠償請求控訴事件について検討してみました。
I. 平成6年 (ワ) 第22487号事件は、立方晶型窒化硼素を含有する高硬度工具用焼結体に関するものです。原告である特許権者が、被告の焼結体製品の製造販売が原告特許権を侵害するとして損害賠償等を求めたものです。


原告特許権 (特許第1281332号) の特許請求の範囲は下記の通りです。

「立方晶型窒化硼素を体積%で80〜20%含有し残部が周期律表第4a、5a、6a族遷移金属の炭化物、窒化物、硼化物、硅化物もしくはこれ等の混合物または相互固溶体化合物からなり、この混合物または化合物が焼結体組織中で連続した結合相をなすことを特徴とする高硬度工具用焼結体。」

(特許請求の範囲中の下線は、争点に関係する部分を明かにするために、筆者が書き込んだものです。)

・争点の一つは、「残部が周期律表第4a、5a、6a族遷移金属の炭化物、窒化物、硼化物、硅化物もしくはこれ等の混合物または相互固溶体化合物からなり」をどのように解釈するかと言う点にありました。


A. 原告の主張の要点

「残部が・・・からなり」の構成要件は、「周期律表第4a、5a、6a族遷移金属の炭化物、窒化物、硼化物、硅化物もしくはこれ等の混合物または相互固溶体化合物 (以下、「周期律表化合物」と略す) 」が必須の要件であることを述べているだけである。他の物質を含んではならないと言う意味ではない。このことは、本特許明細書に他の物質 (酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等) を副成分、追加的成分として含んでよいことが開示されていること、アルミニウムを原料に添加する実施例も示されていること、並びに被告製品に含まれる酸化アルミニウム等は、耐摩耗性に優れると言う本特許発明の焼結体が持つ特徴を失わせるものでないことから明らかである。

B. 被告の主張の要点

「からなる」と言う表現は、それ以外のものを含まないと言う意味であり、立方晶型窒化硼素以外の残部が、周期律表化合物のみであると言うことである。また、本特許権の出願経過 (筆者注: 出願経過は下記の裁判所の判断を参照して下さい。) からも、残部として周期律表化合物以外の成分が含まれないものを本特許権の対象としたと言える。被告製品は、立方晶型窒化硼素以外の成分として、周期律表化合物だけではなく、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び硼化アルミニウムを含んでいる。

C. 裁判所の判断の要点

「残部」とは、本特許発明の焼結体から立方晶型窒化硼素を除いた部分を意味している。特許請求の範囲の「残部が・・・からなり」との記載を文言通りに解釈すれば、本特許発明の焼結体は、立方晶型窒化硼素が80〜20%、残部である周期律表化合物が20〜80%と言う組成を有することが明らかである。即ち、「残部が・・・からなり」と言う構成要件は、特許請求の範囲の文言自体から、本特許発明の焼結体における残部は周期律表化合物のみであり、他の成分 (殊に、酸化アルミニウム) を含むものではないと解釈するのが相当である。上記解釈は、原料中に含まれる不純物、製造過程で生じ得る副生成物等、意識的に含有させたものではなく、不可避的に含まれることのある成分が焼結体中に存在することまでも排除するものではないが、全体から見て無視し得る程度のわずかな量に限られると解すべきである。

上記のように解釈すべきことは、本特許明細書の発明の詳細な説明の記載からも裏付けられ得る。即ち、酸化アルミニウムにつき、高温下での熱伝導率が著しく低下すると言う大きな欠点を有する旨の記載がある。焼結体自体の含有成分が具体的に開示されている唯一の実施例において、焼結体の成分中、立方晶型窒化硼素以外の残部としては、周期律表化合物である窒化チタン及び硼化チタンのみが検出されている。また、顕微鏡写真からも、残部として周期律表化合物以外の成分を含むことをうかがわせる何らの示唆もない。

また、本特許権の出願経過に照らしても、「残部が・・・からなり」と言う構成要件は上記のように解釈されるべきである。本特許発明は、拒絶理由通知を受けたため、その一部につき分割出願をすると共に、全文訂正明細書を提出するなどの経過を経て登録に至ったものである。即ち、分割前の特許請求の範囲には、残部が周期律表化合物を「主体としたものからなり」と記載されていたところ、審査官は、「主体とある以上、『周期律表化合物』以外に他の成分を含有すると認められるが、その成分が具体的に示されていないから、本願発明の構成が不明瞭である」と言う拒絶理由通知を行った。これに対して、原告は意見書を提出し、かつ明細書の補正及び分割出願の手続を行った。そして、周期律表化合物が結合相の全部を占めるものを本特許権として特許査定を受けた。該出願経過に照らせば、残部として周期律表化合物以外の成分を含むものは、本特許発明の技術的範囲から除外されたと解するのが相当である。

本特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、周期律表化合物以外の金属相を含むものであってもよい、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等の化合物も結合相の副成分として本特許発明の焼結体の特徴を失わない範囲で含有してもよい、アルミニウム等を添加物として含むものであってもよい旨の記載がある。また、実施例には、焼結体の原料として酸化アルミニウム粉末を体積で20%配合することが示されている。従って、本特許発明の焼結体には、周期律表化合物以外の成分、殊に、酸化アルミニウムを含んでいても差し支えないものと解する余地があるようにも見える。

しかし、本特許発明の焼結体は、特許請求の範囲の記載自体から、周期律表化合物以外の成分を含むものでないと明確に解釈し得ることは上記の通りであって、発明の詳細な説明中の記載はこれと矛盾すると言うことができる。特許請求の範囲の記載から特許発明の技術的範囲を明確に解釈できる場合においては、これと矛盾する記載が発明の詳細な説明中にあるとしても、特許請求の範囲の記載が優先するのであり、発明の詳細な説明中の記載に基づいて、特許請求の範囲の文言から理解される特許発明の技術的範囲を拡張して解釈することは許されないと言うべきである。

裁判所は、以上のように述べて、原告の主張を却下しています。



II. 平成16年 (ネ) 第1589号事件は、液晶組成物に関するものです。控訴人 (原審の原告) である特許権者が、被控訴人 (原審の被告) 製品の製造販売による特許権侵害を理由とする損害賠償を求めている事件です。なお、本件は、平成14年 (ワ) 第25697号事件の判決を不服とした原告 が東京高裁に上告した事件です。

控訴人特許権 (特許第2965229号) の特許請求の範囲は下記の通りです。

「下記一般式(I)で表される非カイラルな化合物と、吸着剤に対する吸着性が一般式(I)で表される非カイラルな化合物より大きくない下記一般式(II)または一般式(III)で表されるカイラルな化合物からなり、液晶組成物に対する重量比が1.0%の吸着剤で精製処理した場合、らせんピッチの精製処理による変化P/P0が1.10より小さい、シアノ基含有化合物を含まないアクティブマトリックス用ネマチック液晶組成物 (ここで、P0は25℃において測定した吸着剤処理前の液晶組成物のらせんピッチであり、Pは25℃において測定した吸着剤処理後の液晶組成物のらせんピッチである)。」

(特許請求の範囲中の下線は、争点に関係する部分を明かにするために、筆者が書き込んだものです。なお、上記請求項中の記載には、一般式(I)、(II)及び(III)を特定する記載がありますが、ここでは省略しています。)

・争点の一つは、本特許発明の液晶組成物にエステル基 (‐COO‐) 含有化合物を含む液晶組成物が含まれるかと言う点にありました。

A. 控訴人の主張の要点

本明細書の特許請求の範囲には、「一般式(I)で表される非カイラル化合物」と「一般式(II)又は(III)で表されるカイラル化合物」のみからなる「液晶組成物」とは記載されていない。「AとBからなる」との文言は、「AとBを用いている」との文言と同義であり、AとB以外の第三成分を排除する意味合いはない。

本特許発明は「シアノ基含有化合物を含まない」と規定している。シアノ基含有化合物も、エステル基含有化合物と同様に、一般式(I)、(II)及び(III)のいずれにも含まれていない。従って、本特許発明においては、液晶組成物を構成する非カイラル化合物とカイラル化合物が、夫々、一般式(I)、並びに一般式(II)及び(III)に明示される化合物からしか選択し得ないと言うのであれば、「シアノ基含有化合物を含まない」との構成は全く意味のないものとなってしまう。「シアノ基含有化合物を含まない」との構成を規定した以上、本特許発明の液晶組成物には、一般式(I)、(II)及び(III)以外の第三成分をも含むものと解さざるを得ない。

控訴人が提出した証拠に基づけば、本特許発明の液晶組成物中にエステル基含有化合物が40%程度含まれていても作用効果に相違はない。被控訴人製品に含まれるエステル基含有化合物は9.6%、15.9%、21.3%程度であって、主成分はあくまでも一般式(I)の非カイラル化合物である。故に、本特許発明の構成要件をすべて満たす以上、本特許発明の技術的範囲から外れるものではない。

B. 被控訴人の主張の要点

非カイラル化合物の混合物中に、一般式(I)で規定される以外の第三成分としての非カイラル化合物の添加が許されるとすれば、非カイラル化合物の混合物中の非カイラル化合物が限定されず、いかなる非カイラル化合物を選択してもよいと言うことになって、一般式(I)で非カイラル化合物を特定した意味がなくなってしまう。本特許発明の液晶組成物に第三成分を含むとしても、本明細書には、どのような第三成分がどの程度添加されるかについて記載がないから、容易に実施することができない。「シアノ基含有化合物を含まない」との構成が不要なものとなったとしても、本特許発明の液晶組成物に、一般式(I)、(II)及び(III)以外の第三成分を含むと解することはできない。

C. 裁判所の判断の要点

確かに、本明細書の特許請求の範囲には、「一般式(I)で表される非カイラル化合物」と「一般式(II)又は(III)で表されるカイラル化合物」のみからなる「液晶組成物」とは記載されていない。
しかし、「AとBからなる」との文言は、AとB以外の第三成分を排除する趣旨で使用するのが通常である。従って、本特許発明の特許請求の範囲や発明の詳細な説明にAとB以外の第三成分を明示的に加える旨の記載があるなど特段の事情が認められない限り、「AとBからなる」との文言が「AとBを用いている」との文言と同様にAとB以外の第三成分を排除する意味合いがないと解することはできない。そして、本明細書の特許請求の範囲には、一般式(I)のX、Y、Z、R1、R2の選択肢にはエステル基が記載されていない。また、本明細書の発明の詳細な説明にも、第三成分としてエステル基含有化合物を含むこと示唆する記載はない。
従って、本特許発明の液晶組成物には、一般式(I)で表される非カイラル化合物のほかに第三成分としてエステル基含有化合物を含むものと解することはできない。

裁判所は、以上のように述べて、原告の主張を却下しています。



検討

I. 平成6年 (ワ) 第22487号事件において、原告は、「残部が周期律表化合物からなり」の構成要件は単に周期律表化合物が必須の要件であることを述べたに過ぎず、他の物質を含んではならないと言う意味ではないと主張しています。

これに対して、裁判所は、「残部が周期律表化合物からなり」と言う構成要件は、本特許発明の焼結体における残部は周期律表化合物のみであり、他の成分を含むものではないと解釈しています。

この事件において、「・・・から成る」との文言は「・・・のみから成る」と解釈されています。但し、不純物や副生成物等、不可避的に含まれる成分まで排除するものではないとしていますが、その含有量は無視し得る程度の僅かな量に限られるとしています。

また、発明の詳細な説明の欄に、他の成分を含んでいてもよい旨の記載があっても、特許請求の範囲の記載自体から、他の成分を含むものでないと明確に解釈し得るときには、特許請求の範囲の記載が優先し、発明の詳細な説明の記載に基づいて、特許請求の範囲の文言から理解される特許発明の技術的範囲を拡張して解釈することは許されないとも判断しています。このような判断がなされた理由は、多分に本特許権の出願経過とも関連すると考えられますが、その一方で、この判断は非常に重要なことを示唆していると考えます。即ち、特許発明の技術的範囲の解釈にあたっては、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載に優先すると言うことです。発明の詳細な説明に記載された事項が、特許発明の技術的範囲を解釈するに当って参酌されない可能性があると言うことです。特許法第70条の規定の趣旨、とりわけ、リパーゼ判決 (昭和62年(行ツ)第3号) 後に設けられた特許法第70条第2項の制定趣旨に照らせば、上記のように判断されることは当然であるとも思われます。しかし、リパーゼ判決では少なくとも「特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するにあたっては」と言う条件が付いているのです。特許発明の技術的範囲を認定する際にリパーゼ判決がそのまま適用されるか否かについては必ずしも定かではありません。いずれにせよ、特許請求の範囲の記載にあたっては細心の注意が要求されることに相違はありません。発明の詳細な説明に詳しく記載しておけば何とかなると言う考えは通らないと考えた方が良いでしょう。


II. 平成16年 (ネ) 第1589号事件において、控訴人は、「AとBからなる」との文言は、「AとBを用いている」との文言と同義であり、AとB以外の第三成分を排除する意味合いはないと主張しています。

これに対して、裁判所は、「AとBからなる」との文言はAとB以外の第三成分を排除する趣旨で使用するのが通常であるから、本特許発明の特許請求の範囲や発明の詳細な説明にAとB以外の第三成分を明示的に加える旨の記載があるなど特段の事情が認められない限り、「AとBからなる」との文言が「AとBを用いている」との文言と同様にAとB以外の第三成分を排除する意味合いがないと解することはできないと判断しています。

この事件において、「AとBからなる」との文言はAとB以外の第三成分を排除する趣旨と解釈されています。但し、特許請求の範囲や発明の詳細な説明に第三成分を明示的に加える旨の記載があるなど特段の事情がある場合にはこの限りではないと判断しています。

控訴人は、「AとBからなる」との文言をAとB以外の第三成分を排除する意味と解釈すると、「シアノ基含有化合物を含まない」との構成は全く意味のないものになってしまう旨の反論をしています。しかし、裁判所はこの主張を全く考慮していません。特許請求の範囲に記載された「・・・からなる」の文言解釈を優先しています。特許請求の範囲を作成する際に、控訴人が何故、「・・・からなる」の文言を使用したかは定かではありません。「・・・からなる」ではなく「・・・を含む (含有する) 」を使用しておけば、「シアノ基含有化合物を含まない」との構成が意味あるものになったかもしれません。また、裁判所の判断にも影響を及ぼした可能性があったのかもしれません。しかし、発明の詳細な説明中に第三成分を含む旨の記載が全くないなら、同様の結果にならざるを得ないのでしょう。


以上、二つの事件を見て来ましたが、「・・・から成る」との文言は、但し書きに相違はあるものの、いずれも第三成分を排除する趣旨と解釈されています。従って、「・・・から成る」との文言は、特別な場合、例えば、第三成分を排除することにより特別に新規性、進歩性を主張すると言うような場合を除いて、使用を差し控えるのが好ましいと考えます。

なお、この判例の詳細は、裁判所ホームページ (http://www.courts.go.jp/) の裁判例情報から上記の事件番号 (平成6年 (ワ) 第22487号又は平成16年 (ネ) 第1589号) を入力することによりご覧になれます。また、特許庁ホームページ (http://www.jpo.go.jp/indexj.htm) の「特許電子図書館 (IPDL)」をクリックし、経過情報検索から1の番号照会に入り、番号種別に登録番号を選択して、照会番号1281332又は2965229を入力して検索実行すれば、本特許権に関する経過情報及び公報等を入手することができます。

以 上

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